田中和彦が斬る!関西マンション事情 不定期
田中 和彦

[第244号]都心は本当に高すぎるのか?

2025年07月24日

 こちらのコラムでも何度も取り上げた「今、旬なマンションランキング」。2025年夏、関西エリアの上位を占めているのは、ブランズタワー谷町四丁目(大阪市中央区)、プレミスト京都五条(京都市下京区)、ザ・パークハウス 神戸三宮(神戸市中央区)といった、都心またはその近接地に位置するマンションばかりである。

 これらが「旬」であるのは、単なる地名やブランドの人気や知名度の高さだけではない。不動産という資産の本質が、立地によって決まるという現実を物語っている。

 実際、近畿圏の新築マンション供給は、地域的な偏りが際立っている。2025年6月時点の新規分譲戸数においては、大阪市部が全体の約41%を占め、京都市部と神戸市部を加えると全体の6割強が都心部に集中している(出典:不動産経済研究所)。供給が集中するということは、そこで建てれば売れるという確信がある証左であり、言い換えれば供給の多さは需要の裏返しである。

 地方・郊外が「高いから建てられない」のではない。都心部が「高く売れる」からこそ、建てられるのだ。

 それでもなお、「大阪中心部は高すぎる」「京都市内は坪単価が異常だ」といった声は根強い。価格だけを見ると、確かに過熱しているように感じるのも無理はない。だが、その価格には、しっかりとした裏付けがある。

 たとえば、同じ5,000万円の予算でマンションを購入するとしよう。ある地方都市で85㎡の築浅マンションを買えば、空間の広さや新しさには満足できるかもしれない。ただし再販時に買い手が見つかりにくく、資産価値が大きく目減りする可能性もある。一方で大阪市内の駅近物件であれば、たとえ50㎡台とコンパクトでも、築10年を超えても高いリセールバリューを維持し、今後は、子育て層ファミリーは更に減少し、単身世帯が増加することを考えると、賃貸としても需要が高いことは想像に難くない。

 つまり、高いか安いかは金額の話であって、資産性の有無とは別問題である。重要なのは、その価格に値する市場価値と流動性があるかどうか、という点だ。

 ここで忘れてはならないのが、現在の建築費の高騰である。2024年度の建設受注額は過去20年で最高水準を記録し、資材価格・人件費ともに上昇が続いている。これほど高コストな時代においても供給が続くのは、価格転嫁が可能な都心部だけである。だからこそ、都心部に新築マンションが供給され続けるという構造が生まれる。

 それは人気があるから建てているのではなく、事業として成り立つ唯一の場所がそこだからである。実際、京都府下や大阪府南部、兵庫県の神戸市以西では一部駅前エリアを除くと価格転嫁が困難であり、新規分譲そのものが成立していない状況が続いている。

 このような状況を裏返せば、地方では新築が建たず、既存のストックは老朽化するばかりである。需要は細り、リフォーム投資も進まず、結果として「流動性のない不動産」が積み上がっていく。安く手に入るからといって、それが資産として価値を保ち続けるとは限らない。むしろ、将来的に手放せないリスクを抱える“負債”と化す可能性の方が高い。

 不動産を「住まい」としてだけではなく、「資産」としても考えるならば、出口戦略の見込みがあるかどうかが最大の判断基準になる。高くても将来的に売却でき、賃貸にも出しやすいという市場の厚みがあれば、価格の高さはリスクではなく合理性と考えられるべきだ。

 逆に、どれだけ安く手に入っても、買い手も借り手もつかない不動産は、やがて持ち主を苦しめることになる。

 都心部では建てれば売れ、売れれば価格が上がり、資産性がさらに評価される。こうして好循環が続く限り、“旬なマンション”は都心に集中し続ける。一方、供給できず、流通も限られるエリアでは、価格はじわじわと、しかし確実に下がっていく。

 「高すぎて手が出ない」と思ったその物件こそ、10年後には「もう手が出せない」存在になっているかもしれない。

 「今、旬なマンション」という称号は、偶然得られるものではない。そこには、今と将来にわたって資産価値があると市場が認めたという、確かな裏付けがある。

 

この記事の編集者

田中 和彦

株式会社コミュニティ・ラボ代表。マンションデベロッパー勤務等を経て現職。
ネットサイトの「All About」で「住みやすい街選び(関西)」ガイドも担当し、関西の街の魅力発信に定評がある。

Official Site:https://c-lab.co.jp/
YouTube:@clabkyoto
Twitter:@tanakahant
Instagram:@kazuhiko.tanaka