不動産好きな人もそうでない人も、話題騒然となったネットフリックスのドラマ「地面師たち」。2017年、積水ハウスが詐欺グループに架空の土地売買で数十億円を騙し取られた事件がモチーフとなっている。
事件当時は、当然ながら、不動産業界で大きな話題となった。報道でも言及されていたが、舞台となった五反田の物件はさまざまなルートから売却情報が飛び交う、業界でいうところの「有名物件」。分譲マンションデベロッパー業界界隈では「本当に買えるのか?」「あれはヤバいのでは?」等と言われていた。その後、詐欺事件として報道され、書籍にもなり、今回のドラマ化でさらに多くの人が知ることとなった。
「地面師たち」もさることながら、実際の事件は、詐欺師グループにより仕掛けられた巧妙なやり口でプロが騙されたというより、何度も気づく場面があったにも関わらずいとも簡単にプロが騙されたという印象が強い。
なぜプロが騙されたのか?騙されるに至るまでの過程で、以下の二点が興味深い。
まず一つ目は、売主の無理な要求を受け入れたこと。
契約スケジュールの前倒し、権利書無しでの取引、取引業者の名称変更等の一般的にはイレギュラーな要求に対し、拒否することや納得いくまで説明を求めるなどの対応ができたにも関わらず、その要求を受け入れている。この要求を飲まなければ別のデベロッパーに持っていかれる、と無理を重ねたのだろう。そのような要求をするのは何故か?その真実を見極めることを避け、「売主の要求や主張に妥当性がある理由」を買主自らが想像して納得していたように思えてならない。
二つ目は、内部外部の忠告を受け入れなかったこと。
担当の部長や真の所有者、同業者等が、色々なタイミングで当該取引が怪しい事に対して忠告等をしているが、買主は取引を中止することは愚か、考え直すこともなかった。忠告等は成約させないための邪魔ややっかみと捉え、真摯に取り上げて向き合うことをせず、耳を貸さなかったのだ。
売主の怪しい部分には「正しい理由」を考えて自らを納得させ、忠告等は邪魔ややっかみと判断して耳を貸さない。成約することありきで欲に目が眩むと、プロでも騙されるわけだ。
この事件で思ったのは、取引の過程でおかしいな変だなと思う違和感を大事にしたいということ。これは巨額な土地売買に限ったことではない。
違和感がある時は、「きっとこういうことなんだろうな」と解釈してことを進めないことを徹底してほしい。マイホームの購入であっても「まあ大丈夫」「おそらくこのような理由」と済ませずに、自分で調べたり担当営業マンや別のプロに聞いたりすることで答えを出したい。
「プロでも騙されるのだから一般人には防げない」のではない。「プロでも成果を急ぐと騙される」のだ。
小さな違和感を「多分大丈夫だろう」と何度も繰り返すと必ず痛い目にあう。