田中和彦が斬る!関西マンション事情 不定期
田中 和彦

[第217号]中心部不動産の高騰で薄まる「地ぐらい」

2024年06月12日

 筆者の事務所は特段インバウンド需要に向けた告知活動をしていないが、京都という土地柄か、日本で物件を購入したい外国人からの問い合わせがしばしばある。海外顧客向けのアプローチをしっかりとしている会社であれば相当数の反響が取れているに違いない。

 かつて、不動産購入といえば地元の人が地元で買う「実需」が大半だった。もちろん富裕層がリゾート地で別荘を購入するような需要もあったが、マーケットでの存在感は今に比べると低かった。

 だが今では、随分と様子が変わっている。特に東京都区部や大阪市内、京都市内等の市街地においては、一般的な給与所得者が「地元の分譲マンション」を購入するのが随分と難しくなっている。そしてそれを補うように、富裕層や外国人によるセカンドハウスや投資目的の購入が増えている。都心部の高額マンションを購入している実需層も存在するが、多くの人は購入後の値上がりを期待し資産価値の増大を狙っての「自宅投資」として購入しており、純粋な「マイホーム取得」だけが目的という方は少数派であろう。

 都心部では、セカンドハウスにしても投資にしても、共通する重要なポイントは利便性が高いこと。子育て層が重きを置くような「環境」ではない。もちろん環境も大事だが、求めるのはステイタス・眺望等であり、子育て層が重視する学校区・公園等の環境とは少し異なる。

 セカンドハウス需要では、治安も気になるが、「治安抜群で何もない」よりは「治安はそこそこだが商業施設等が充実している」方が都心の暮らしを楽しめるため、特段に治安が悪いエリアではない限り利便性の方が大切だ。投資に関しては【賃料÷価格の利回り】、すなわち経済合理性で決まるので、都心で賃貸需要が旺盛で、高い賃料が取れるなら治安や地ぐらいはあまり関係ない。

 実際に関西では、JR「京都」駅周辺、中津や中崎町等のJR「大阪」駅に近接する場所、難波周辺といった住宅地としては決して人気の高いといえなかった、いや、むしろ低かったエリアの不動産が高騰している。かつて「あそこは便利だけど、住もうとは思わない」と言われていたエリアの人気が高まっている。首都圏で相場の肌感覚は関西ほど持ち合わせていないが傾向としては変わらない。

 人口減少とともに地方の不動産は郊外部から下落が始まっている。少子化により子育て世帯が減少することで「環境の良い郊外住宅地」に向かう人は少なくなり、高齢化が進むことで都心部の利便性の高い場所の人気が高まる。そこに上記で述べたセカンドハウス需要や投資需要が重なることを考えると、圧倒的な環境の良さやステイタスの高さがあるエリアを除けば、今もそうであるが今後は更に、相対的に「ある地域と比べて環境が良い/地ぐらいが良い」ではなく、都心に近い・駅に近い・飲食店が多い・繁華街に近いなどの利便性の高い不動産の価値が高まっていくと考えられる。

この記事の編集者

田中 和彦

株式会社コミュニティ・ラボ代表。マンションデベロッパー勤務等を経て現職。
ネットサイトの「All About」で「住みやすい街選び(関西)」ガイドも担当し、関西の街の魅力発信に定評がある。

Official Site:https://c-lab.co.jp/
YouTube:@clabkyoto
Twitter:@tanakahant
Instagram:@kazuhiko.tanaka