先日あるドラマで「出身はどこですか?」「三宮です」というやりとりがあった。その表現がどうもすわりが悪い感じだったので、SNSに書き込み知人の意見を聞いてみたところ、ほとんどの人が私と同様の違和感を感じていた。違和感を感じなかった人はわざわざ書き込まないだろうから、「この言い回しは間違っている」とは言わないが、ドラマのセリフとしてはリアリティがなかったように思う。
なぜなら関西人、少なくとも三宮を知っている人にとって、三宮は商業やビジネスの中心であり住まいの多くある場所ではないという共通の認識があり、そこに住んでいる人は多くはいないと思っているからだ。灘区・東灘区もしくは三宮以西となる兵庫区・須磨区等の近隣エリアに住居を構え三宮のある中央区で勤務するのが一般的なイメージだ。
ところが今は少し事情は変わりつつある。例えば本日(8月12日)「今、旬なマンションランキング」にはベイシティタワーズ神戸EAST・ベイシティタワーズ神戸WEST、ワコーレザ・神戸旧居留地レジデンスタワー、ブリリアタワー神戸元町、ラシュレ神戸三宮、グランドメゾン神戸北野坂と複数の「三宮界隈物件」が掲載されている。ここ10~20年で供給された新築分譲マンションは多数あり、昔は少なかった「生まれも育ちも三宮」という人が今後はどんどん増えていく。
これは大阪梅田も同じだ。2000年頃までは梅田もやはり「住む場所」としてのイメージは薄かった。薄かったというよりも無かったといったほうが実感値に近い。しかしここ10年ほど梅田は「住みたい街ランキング」上位の常連。後10~20年もすれば「出身は梅田」も何ら違和感がなくなるだろう。
また「今、旬なマンションランキング」の200戸以上をみると、ローレルスクエアOSAKA LINK(阪急「下新庄」駅徒歩4分)以外は全て商業エリア・オフィスエリア。大阪市内で住宅街として認識されている西淀川区、鶴見区、住吉区等の名前はない。このような市況を見ていると、バブル崩壊やリーマンショック前後の市況を知らず、ビジネス街でひっきりなしにタワーマンションが供給される近年に育った若年層は、三宮住まいや梅田住まいに対して「なぜ違和感があるのかわからない」と考えているかもしれない。
このような都心居住のトレンドは、コロナ禍でも変わっていない。多少郊外需要が増えはしているが、相変わらず都心部のマンション価格は下がる気配がない。またオリンピック後には都心部の不動産が大暴落するという予測(?)もあったが、オリンピックが終わった今それも起きていない。
感染者数が増えていたり、ワクチンが行き届いていなかったり、変異株が発生したりと、当面は混沌とした情勢が続く。しかしコロナ前の生活スタイルには戻らずとも、感染対策を施しての観賞・観劇・飲食等というスタイルが確立される。そうなると、感染に過敏になり都心を避ける必要もなくなり、大きな移動をすることなく食事やエンターテインメント等を楽しむための都市居住という選択がかえって好まれる可能性もある。
中には「都心の住宅は高い。今は低金利だから購入できるが、金利が上がると暴落し都心の不動産は売れなくなる。」という人もいる。しかし、金利が上昇した場合、影響を受けるのは全ての不動産であり都心だけがダメージを受けるわけではない。むしろ金利上昇の影響を受けやすいのは、キャッシュやプロパーのローンで購入する人の多い都心物件より、住宅ローンを利用して購入する層が多い郊外ファミリー物件とも言える。投資先としての都心不動産は価格調整はあっても需要が減るとは考えにくい。
「出身はどこですか?」「三宮です」。この会話に対する捉え方の違いで、相手とのジェネレーションギャップがわかるかもしれない。