田中和彦が斬る!関西マンション事情 不定期
田中 和彦

[第142号]コロナ禍でも関西で郊外居住が注目されないわけ

2021年04月28日

コロナ禍で都心を離れ郊外に人が移動し始めている、郊外人気が高まっている。よく聞く話だが関西にいると正直実感はない。アメリカではカリフォルニア州からネバダ州・アリゾナ州、ニューヨークシティからニュージャージー州・フロリダ州と、数百kmレベルで「近隣州へ移動」する人が増えている。富裕層が逃げ出す例もあれば、都心部の不動産が高騰したため近隣州に行かなければ家を買えないという事情もある。

東京の場合、流石にアメリカほど大きな移動はほぼないであろうが、それでも千葉や埼玉が注目を浴び、湘南や鎌倉への移住者も増えていると聞く。私が活動の拠点を置く京都においても、今年に入り東京からの移住・二拠点間生活のお客様からの問い合わせが増えた。アメリカの例、東京の例、共に数字ベースの話ではなくあくまで不動産業界関係者からの生の声だ。

それでは関西はどうか?大阪市内、京都市内、神戸市内の居住者が郊外に引っ越した、という例はほぼ聞かない。なぜ東京で起きていることが大阪で起きていないのか。これについては色々と思い当たる節はある。

まず、東京と関西ではリモートワークの普及率が違う。リモートワークにより通勤の負荷が減るから都心まで時間のかかる郊外移住が可能になる。リモートワークをしている人の割合についての正確な数字は知らないが、東京と大阪を比較して東京の方がリモートワーク率が高い、すなわち郊外居住を検討できる人が多いことは想像に難くない。

リモートワークをするには企業としてある程度の投資が必要であり、資金的に余裕のある大企業の方が取り組みやすいと言えるが、東京にはその大企業が多い。数字で見るとその差は歴然で、資本金10億円以上の企業数(2016年)はその50.6%が東京都にあり、 関西は大阪府・京都府・兵庫県、奈良県を含めた4府県合わせてもわずか13.5%しかない(※1)。また政府の要請する出社率7割減についても守ろうとする意欲が高いのはおそらく大企業であろう。中小零細企業はリモートワーク環境を整備するのも困難で、ましては3割出社を守るのも難しい。また、リモートワークがしやすい職種、例えばWEB関連、デザイン関連等の職種につく人が多いことも理由として挙げられる。

生活に余裕があり、暮らしやすい環境とステイタスの高さを兼ね備えた場所に移住するパターン。先に挙げたアメリカの例で言えばニューヨークシティのマンハッタンからフロリダ州のマイアミに移住するようなパターンも、東京ではイメージできるが大阪では考えにくい。

そもそも東京在住者の方が裕福だ。東京都の平均年収436万円、大阪府は353万円(※2)。東京都の方が2割以上年収が高い。そんな年収の高い人が向かうのは箱根、湘南、鎌倉と言った別荘地だ。東京は別荘地が充実している。もう少し足を伸ばして神奈川県以外に目を向けると軽井沢や那須もある。それに比べて関西はどうかというと有馬、白浜あたりしか思いつかない。温泉旅行に行くにはいいが「富裕層が住む別荘地」とは言い難い。大阪に住む富裕層が自然環境とステイタスの両立を考えて居住地を探すとしても、わざわざ郊外に行かずとも芦屋、京都あたりで事足りる。どちらも大阪から新快速で数駅の完全な通勤圏だ。

以上のような理由から、関西では都心離れが起きにくいと言える。

 

(※1)企業等の東京一極集中の現状(国土交通省)
(※2)求人ボックス給料ナビ

 

この記事の編集者

田中 和彦

株式会社コミュニティ・ラボ代表。マンションデベロッパー勤務等を経て現職。
ネットサイトの「All About」で「住みやすい街選び(関西)」ガイドも担当し、関西の街の魅力発信に定評がある。

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