田中和彦が斬る!関西マンション事情 不定期
田中 和彦

[第139号]災害に気をつけたい盛土造成地~国交省による安全対策の実施状況

2021年03月12日

東日本大震災から十年が経った。この震災で真っ先に思い出されるのは津波だ。想像を絶する規模で多くの犠牲者を出した。忘れようにも忘れられない。だが、震災の被害は津波だけではない。津波被害が大きかったので印象は薄くなっているが、土砂災害による被害も複数箇所で発生した。阪神淡路大震災も建物倒壊や火事の映像が印象に残っているが、大規模な地滑りによる被害もあった。

土砂災害は山間部等で起きることが多いが、人的な被害が懸念されるのは盛土による造成地だ。時に大規模なものについては注意が必要となる。

先日、国土交通省から発表された報告によると、全国999市区町村には約5万カ所の大規模盛土造成地があり、順次調査を進めているらしい。

昨年2020年の3月に「大規模盛土造成地マップ」を公表し、「造成年代調査」「現地踏査」「安全性把握」のステップを踏み、その中で崩落の恐れがあるものについては「滑動崩落防止工事(地下水の排除、滑動抑止杭の設置、擁壁の補強工事等)」が実施されていく。

現時点では、上記ステップのうち安全性把握に着手した市区町村が64、完了済み39。滑動崩落防止工事の完了はまだ2地区のみとなっている。(震災復旧事業は除く)

対象となる大規模盛土造成地は、都心の都道府県に多い。一見意外にも思えるが大規模盛土造成地=住宅ニーズであったわけで、ある意味当然なのかもしれない。一番多いのは神奈川県(6304)で次いで福岡県(4990)、大阪府(3723)、愛知県(3626)と続く。そして安全性に対する現地調査だが、都道府県によるバラツキが非常に大きい。関西を例に見てみよう。

現地調査については、滋賀県・兵庫県・和歌山県が100%実施済み。全国平均が44.3%であるから大変優秀だ。ただ安全性の把握となると兵庫県が完了率22.6%で、滋賀県・和歌山県は共に0.0%。しかしこの2県も現地調査が完了しているだけマシで、京都府・大阪府・奈良県は現地調査の完了率がそれぞれ4.2%・3.0%・0.0%と、ほぼほぼ手付かずの状態だ。

調査が終わっていない土地が全て危険なわけではないが、耐震性能が不十分な場合は大きな地震が発生した際に家屋被害等が発生する可能性がある。一戸建てであれマンションであれ、旧市街地以外で物件を購入する際は、重要事項説明でのハザードマップ確認はもちろんのこと、元の地盤がどのようなものであるか、そこが盛土である場合はその安全性は調査されているのかなどは調べておきたい。

なお、全国の大規模盛土造成地の分布は「重ねるハザードマップ」で確認することができる。

 

 

この記事の編集者

田中 和彦

株式会社コミュニティ・ラボ代表。マンションデベロッパー勤務等を経て現職。
ネットサイトの「All About」で「住みやすい街選び(関西)」ガイドも担当し、関西の街の魅力発信に定評がある。

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