田中和彦が斬る!関西マンション事情 不定期
田中 和彦

[第134号]コロナ元年~不動産業界の振り返り

2020年12月23日

今年は、年初から年末までコロナコロナで明け暮れた。年末になっても収束の様子は見えず、おそらく来年も「ウィズコロナ」が続くのであろう。今回の記事は今年最後の更新となる。簡単に2020年の不動産業界を振り返ってみたい。

 

【住宅需要は堅調】
緊急事態宣言前後から飲食店やホテルの閉店・廃業が相次ぎ、その傾向は今も続いている。GoToキャンペーンによる需要の増加もあるが、その効果は限定的だ。インバウンド需要は依然としてほぼゼロ、顧客数が戻った施設においても感染症対策に費やすコストが大きく収益性は下がっている。

事務所についても同様だ。自宅勤務やリモートワークが進み、少なからぬ企業が事務所の縮小を検討している。「サテライト事務所」の需要は増えるであろうが、今までのような「大きな事務所」の需要は減る。

そんな中、住宅需要については堅調だ。飲食業界や宿泊業界はプレーヤーが減少したが、「住宅を必要とする人」はコロナ禍とは無縁だ。むしろリモートワークや働き方の多様化を受け「プラス一室」を求めての需要等が増加している。

また、居住用一戸建てや分譲マンションだけでなく、収益物件についても住宅用途の物件は堅調だ。こちらは体験的に都心部の条件の良いものはジワリと価格が上昇している。事務所ビルやテナントビルの収益が低下する中、住宅用途の収益物件が上昇するのは当然の結果とも言える。

 

【住宅街人気の復活】
リモートワークが定着、通勤と言う足枷がなくなり「都会の密を避け、郊外都市に居住が進む」といった意見が見られたが、そのような動きが極端に進む様子は今のところない。一部の大手企業の従業員や、クリエイター・デザイナーといった一部の職種の人以外は「完全リモートワーク」は難しい。箱根や軽井沢の不動産価格が上がっているという話も聞くが、そのようなエリアはもともとそれほど大きなマーケットではなく、それを持ってして「郊外居住が進んだ」とするのも早計であろう。

ただ、コロナ禍において働き方・暮らし方を見直した人は多い。特に緊急事態宣言中に「緑の多いエリアに住みたい」「もう一部屋欲しい」等思った人がたくさんいるに違いない。

そのような動きは「都道府県地価調査」にも現れている。近年、大阪圏の住宅地で上昇率が高かった上位地点は、その多くが京都市内の中心部。一昨年度は上位10位中9地点、昨年度は上位5位中4地点を占めた。これらの場所は住宅地とはいえ、実際には宿泊施設用途で上昇が見られたエリアであった。

それが「令和2年度都道府県地価調査」では1位が神戸市東灘区、2位~5位が神戸市灘区、6位が芦屋市と上位を阪神間が独占。実際の住宅需要が価格を牽引した結果となっている。

 

【不動産業界のDX化が進む】
不動産業界はなかなかデジタル化が進まない。いまだにFAXでやりとりが多く、署名や捺印がないと進まない話も多い。物件オーナーに高齢者が多い、単価が大きいため業務効率Upしなくても利益が出る、物件の登記・筆界確認・銀行ローン等印鑑やサインが欠かせない業務が多い等々、考えられる理由はいくつかあるが、「アナログな業界」であることは確かだ。

ところがそんな不動産業界にも今年は少し動きがあった。業界で「DX(デジタルトランスフォーメーション)化」が話題に上ることが急激に増え、補助金等の追い風もあり実際に取り組み出す企業が増えた。

チャットシステムやzoomを使った打合せや接客、VR技術や360°カメラを利用したリモート内見から始まり、クラウドを利用しての賃貸物件管理や、実証実験段階としてのオンライン重説を利用する企業も増加した。過分にコストがかかったり使い勝手が良くないサービスは、今ほど感染症対策に気を使わなくても済む世の中になれば元に戻るだろうが、コストダウンや利便性の増加に役立ったサービスは今後も残る。コロナ禍はDX化のきっかけになったと言える。

 

この記事を書いている時点では、「第三波襲来」で感染者数は増大、GoToキャンペーンが中止になるなど鎮静化の兆しが見えない。「アフターコロナの不動産業界」の姿がわかるのは来年以降となりそうだ。

 

この記事の編集者

田中 和彦

株式会社コミュニティ・ラボ代表。マンションデベロッパー勤務等を経て現職。
ネットサイトの「All About」で「住みやすい街選び(関西)」ガイドも担当し、関西の街の魅力発信に定評がある。

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