田中和彦が斬る!関西マンション事情 不定期
田中 和彦

[第131号]「愛されている街」は「少し遠く」「少し郊外」の街

2020年11月13日

リクルート住まいカンパニーから「SUUMO住んでいる街実感調査2020関西版」が発表された。「住みやすい」ではなく「住民に愛されている街(駅)ランキング」と、今までにない切り口が気になり内容を見てみたところ、その顔ぶれは従来の「住みやすい街」とは少し違う結果であった。上位10駅の内7駅を占めた阪神間が圧倒的に「愛されている」街という結果は従来の「住みやすい街」と代わり映えしないのだが、選ばれた駅が「住みやすい街」とは異なっていた。

 

「住みやすい街」は阪急神戸線の特急停車駅である「岡本」駅、「夙川」駅、「西宮北口」駅が上位常連。ところが今回その3駅は「岡本」駅10位、「夙川」駅6位と同じ阪神間にある阪急線の駅3駅の後塵を拝し、「西宮北口」駅に至っては29位。「西宮北口」駅がこの手のランキングでこれほど下位にあるのはあまり記憶にない。では上位を占めたのは何駅か?

 

1位「苦楽園口」駅、2位「中之島」駅、3位「甲陽園」駅。1位と3位は同じ阪急甲陽線駅で、阪急神戸線「夙川」駅からの支線。2位の「中之島」駅も京阪本線からの支線の駅だ。今回のランキングの注目すべきポイントはTOP3駅がいずれも支線の駅だというところにある。

 

不動産の資産価値、正確に言えば資産流動性(=売れやすさ)と賃貸需要を考えると、都心物件・駅近に分がある。同じような考えで支線よりも本線、各駅停車駅よりも特急等停車駅の方が資産価値が保たれやすい。その傾向は「住みやすい街」ランキング等にも現れており、以前であれば、「芦屋川」駅、「御影」駅、「六甲」駅等の特急停車駅ではない駅でも人気の高い駅はあったが、特急の停車しない「芦屋川」駅の人気は近傍にある新快速停車駅であるJR「芦屋」駅にとって変わられ、同じく「御影」駅、「六甲」駅も同じ神戸市内にある特急停車駅「岡本」駅よりもランキング上位に現れることがないなど、存在感を下げている。また阪神間だけでなく他エリアを見ても「梅田」駅、「なんば」駅などのターミナル駅の方がランキングで上位に来る。

 

ところがこれが「住民に愛されている」となったら、どちらかといえば真逆の結果が出た。これについては以下のような理由が考えられる。

 

1、そもそも「人気住宅街」であった
苦楽園口、甲陽園は西宮市内屈指の邸宅街もある住宅地で、バブル時代までは人気も知名度も高かった。中之島もしかり。苦楽園や甲陽園とは少しイメージは違うが「落ち着いた大阪市内」エリアとして人気があった。昨今ランキングには顔を出さないものの、住宅地としてのポテンシャルは高い街だ。

 

2、都心からの距離が近い
「本線ではなく支線」は昨今のトレンドではネガティブ要素であるが、上位3駅は支線とはいえ都心までの距離が近く、乗り換えの手間を考えなければ電車移動でそれほど時間がかかるわけでは無い。

 

3、近傍の他駅よりも相場が安い
苦楽園口、甲陽園は夙川・西宮北口、中之島は淀屋橋・福島等の「近傍にある人気のある街」と比べて(立地による差は当然あるものの)総じて相場は安い。安いが、価格差程に利便性や住環境が劣るわけではなくお買い得と言える。

 

「コロナ禍で郊外人気が高まる」という意見がある。そのような流れが全く起きないとは言わないが、大きな潮流になるとは考えにくい。せいぜい利便性を損なわない程度の「少し遠く」「少し郊外」の人気が高まる程度であろう。今回発表された「住民に愛されている街(駅)ランキング」はそんな考えを裏付けてくれたと言える。

 

(参考サイト)

SUUMO住んでいる街実感調査 関西版2020

 

この記事の編集者

田中 和彦

株式会社コミュニティ・ラボ代表。マンションデベロッパー勤務等を経て現職。
ネットサイトの「All About」で「住みやすい街選び(関西)」ガイドも担当し、関西の街の魅力発信に定評がある。

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