【 変わる不動産の常識 】
住まいサーフィンウェブマスターの沖有人氏の人気連載コラム「不動産の“常識”を疑え」。4月記事の「社長の家が「田園調布・成城の一戸建て」から「赤坂・西新宿のタワマン」に移った合理的理由」を読んだ。たしかに「社長の家」の場所は関西においても変わってきている。
このコラムのタイトルは「東洋商工リサーチ」が行った「2017年全国「社長の住む街」調査」の上位2つの市区町村からつけられているのだが、
アンケートで関西の状況を見たところ、「東京都以外の上位町村」で兵庫県TOPが加古川市加古川町だったり、市区分ベースで見て大阪府のTOPが東大阪市だったりと、あきらかに町工場の多いエリアが登場するなど、東京都内ほど如実な結果にはなっていないが、総論としては沖氏の指摘する「不動産の“常識”」は関西でも変化している。
地名を関西の街に置き換えて少し違った見方も加えて、どのように常識が変わったかを見てみたい。
【 「地くらい」よりも「利便性」 】
沖氏は「地ぐらいの高い(≒住宅地として格が高い)は丘の上」だったが、丘の上は買い物利便や交通利便に乏しく、その暮らしにくさから資産家の住まいは「丘の上よりタワーの上」に移りつつあるとしているが、関西でもこの傾向はほぼ当てはまる。
多少の高低差はあるが四国に匹敵する大きさの関東平野を要する首都圏に対し、関西は平野部が少ない。なので高級住宅街は「丘の上」というよりも「山の手」の言われることが多い。具体的には、兵庫県なら阪神間と呼ばれる西宮市・芦屋市から神戸市東灘区・灘区にかけての阪急神戸線以北のエリア。大阪府では、北摂と呼ばれる池田市・箕面市あたりの住宅街、豊中市・吹田市のニュータウンあたりだ。
この「山の手の高級住宅地」は第一種低層住居専用地域が多く、徒歩圏に買い物施設がないことも珍しくない。また、当然ながら「山の手」であるため高低差がありベビーカーや自転車はもちろん徒歩移動にも適していない。
バブル期までは多くの人が憧れた「山の手の閑静な住宅地」は、「買い物不便な坂道のある住宅地」でもあり、むしろ敬遠される住宅地となってしまったわけだ。
【 エリアによっては「山の手」人気も健在 】
だが首都圏と少し違うところは、従来ほどではないにしても阪神間の山の手エリアの人気は相変わらず高いということ。池田市・箕面市・豊中市・吹田市といった北摂の「山の手エリア」に比べると、阪神間は今でも「住みやすい街」の常連。これは地理的な要因が影響している。
芦屋市から神戸三宮にかけては、北は六甲山系、南は大阪湾に挟まれており平野部が狭い。山と海の距離が近い部分では3km程度しか離れておらず、その狭いスペースに北から順に阪急神戸線・JR東海道線・阪神本線と3本の鉄道、それに国道2号線・国道43号線・阪神高速3号神戸線さらに海側には阪神高速5号湾岸線が走っており、交通利便性がすこぶる高い。なので多少坂道があり近くにに買い物施設がなかったとしても、「バス便ニュータウン」のような不便さはない。
【 商業地から住宅地へと変わった南堀江・福島 】
「社長の住む街調査」「東京都以外の上位町村」で兵庫県TOPは加古川市加古川町と書いたが、大阪府では東京都に近いイメージの場所がランクインしいている。大阪市西区南堀江と大阪市福島区福島だ。
福島・南堀江は、お世辞にも「住宅地」とはいえない。閑静でもない。古くから商店街等で活気のある商業地として知られている場所だ。一時期は商店街の活気が失われシャッターの閉まる店舗も多かったが、ある時期から飲食店等を中心に個性的な店舗が出来始め、感度の高い若者の間で人気のある「オシャレな街」となった。福島は梅田、南堀江は難波、とそれぞれ大阪の中心街から徒歩圏という利便性の高い立地でもあり「生活至便」「交通至便」な街。ここが「オシャレな街」となったことから分譲マンション、特に福島では多数のタワーマンションが供給されいまでは、価格も高騰し「人気の住宅地」となったわけだ。
福島も南堀江も古くから住んでいる人も多く、その魅力や利便性は最近に備わったわけではない。しかし、60〜70代以上の方からすれば同エリアで分譲されるマンションの価格をみれば「ここがなんでそんな高いの?」と驚くはずだ。街の流行り廃りには、トレンドはあっても常識はないといってもいいであろう。