最近リノベーションという言葉をよく耳にします。なんとなく、リフォームよりも心地よさそうな言葉のようにとらえられているのではないでしょうか。既成の間取りや仕様ではない、オリジナリティを追求できそうな点が、時代にマッチしているのではないかと思います。
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新しく住まいを新築するに等しい心構えで
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今回のシリーズは、上手に中古マンションをリノベーションするコツや楽しさについてまとめてみたいと思います。
リノベーション登場の背景
経済の低迷
日本の住宅市場は新築至上主義の時代が長く続いてきました。しかし、経済の低迷が長く続いている現在、新たなニーズを掘り起こすために「リノベーション」が注目されました。
バブル時代は、使い捨て感覚があふれて、住まいでさえもそれに近い感覚だったのではないかと思います。マンションではありませんが、実際に日本の木造住宅の耐用年数は驚くほど短いものだったのです。
マンションは管理組合により定期的な保守修繕が行われますが、住戸内のインフィルに関しては、ほぼ同じ感覚だったと思います。
欧米のように自ら壁紙を取り替えたり、ペンキを塗ったりして維持管理をしているケースは果たしてどれくらいあるでしょうか。少子化
少子化による空室・空き家の問題は今や首都圏にも及びます。不動産価格も下がり、比較的都心部に手ごろな中古マンションを購入できるようになっています。
日本の中古マンション市場のいびつさ
日本の不動産流通市場は、先ほども述べた通り新築至上主義で、中古マンションは本来の価値よりも格段に低く評価されてきました。
経済の低迷のためだけでなく、お買い得な中古マンション購入によるゆとりを、自分なりの価値に投資したいと考え、中古マンション市場に目を向け始めたのでしょう。自分らしさの追求
戦後、人口の大都市流入により、とにかく住まいを確保することが先決でした。最初は質よりも量だったのです。その後、世の中が豊かになるにつれて、住まいの性能や設備のグレードアップが図られてきました。国民のニーズも贅沢になってきて、今や日本の住まいの質や設備の質は世界の各国から見て相当なレベルにあります。そうした状況で、次のステップとして「自分らしさ」、「オリジナリティ」を求めるように変化しつつあるように思います。
メンテナンス・リフォーム・リノベーションの違いは?
住まいの日常的なメンテナンスとリフォーム、リノベーションとはどう違うのでしょうか。
公に規定された境界はありません。リフォーム等を請け負う会社がそれぞれ、独自の見解で区別しているにすぎません。しかし、これから住まいを改善したいと考えている方は、この違いをしっかりと意識しておく方が、失敗がありません。
人によって受け取り方、区分の境界線は違うと思いますが、メンテナンスとリフォーム、リノベーションのおよその区別を考えてみました。メンテナンス
単に劣化や損傷部分、汚れている部分を修理、交換する工事です。「さびた配管を補修、または取り替える」、「黄ばんだ壁紙を取り替える」、「ほつれたカーテンを交換する」、「畳を交換する」、「ふすまや障子を補修する」などです。
リフォーム
「キッチンを高性能のものに取り換えたい」、「子供が独立したので、リビングを広げたい」、「高齢になったので手すりをつけたい」、「収納を使いやすく改善したい」など、より使いやすく生活の質を向上させる工事を対象とします。
リノベーション
例えばリフォームでの「キッチンを高性能のものに取り換えたい」に対して、リノベーション工事では、「友人や近所の方々と気軽にパーティ等を度々開けるような暮らしがしたいので、キッチンをそれにふさわしいものにしたい」となります。
つまりリノベーションとは、新しい暮らしの価値の追求であって、[モノ」ではないのです。ここに大きな違いがあるように思います。
同じ設備の交換、間仕切りの変更などであっても、単に「便利」、「快適」、「機能的」という風に、現在の価値のレベルアップではなく、新たな価値の創造にあります。リフォームとリノベーションでは、住み手が必要とするエネルギー、パートナーとなる業者の選び方に大きな違いが生まれるでしょう。業者選びで違う満足度
数年前に我が家もリフォームしました。我が家の場合は、上記の基準でいえばリフォームに該当すると思います。
目的は「喘息になったので、埃がたちにくい、掃除のしやすい簡素な間取り」、「これから高齢になるに向けて、安全で、家事の負担が少なく、モノの管理が簡単なこと」の2点です。
内装工事であることや自分自身が建築士であることから、業者の質はさほど問いませんでした。しかし、実際は驚くことばかりでした。衣類の管理を徹底的に簡素にするために、既成の収納内部を改造しました。と言っても、細かく仕切りをつけたりするのではなく、むしろ棚等を撤去し、その代わりハンガーパイプ等を2段にしたり2列にしたりして、収納量を倍増させました。そのために細かな図面を作りました。現場の監督は2級建築士でしたが、その簡単な図面がまったく読めませんでした。
大工に渡すと即座に理解し、話はスムーズにいったのですが、図面の詠めない建築士? といった感じです。
また、我が家には和室があり、少し改良してそのまま残したのですが、和室の造作の名前も言えません。
これでは素人がリフォームを依頼する場合は大変だと思います。ましてリノベーションで新たな価値の創造を考えている場合は、それを果たして誰が理解してくれるでしょうか。
従ってリノベーション工事を考えている場合は、しっかりした設計事務所を介在させることをお勧めします。
住宅メーカーに勤めていましたが、設計部には、大学で建築を学んだ社員もいましたが、まったく畑違いの分野の社員も多くいました。
そうした人材もいずれ建築士の資格を取得します。
例外はもちろんありますが、現実問題として4年間の学びの時間はやはり大きな違いなのです。特に「暮らし」に対する素養や理解には、違いが出やすいと思います。おわりに
新しい価値を相手にしっかり伝えるための準備、設計事務所のレベルの見極めなど、リノベーション工事は住み手に大きなエネルギーを要求します。それだけの覚悟と資金が必要です。
新しく住まいを新築するに等しい心構えで対処しないと、「こんなはずではなかった!」となりかねません。 -
Author:佐藤 章子 先生 (一級建築士・CFP・一級FP技能士)
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写真提供:佐藤章子一級建築士として、大手ゼネコンや住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事し、2001年に独立。2002年に『住まいと暮らしのコンサルタント事務所』ハウステージを設立。
「健全な住まいづくりは、健全な生涯設計に宿る…」をモットーに、ファイナンシャルプランニングと建築のハード面の双方から、住まい作りや暮らしを総合的にアドバイスしています。 -
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