田中和彦が斬る!関西マンション事情 不定期
田中 和彦

[第247号]制限付きが選ばれた理由

2025年09月09日

千代田区の番町エリアにて、2025年初頭に分譲された「Brillia二番町」は、資料請求数2,000件超、倍率は最大30倍という人気を集めた。

櫻井幸雄の独自データ
画像出典:櫻井幸雄の独自データ
独自調査で注目物件が判明 全国新築マンション「人気指数」
資料請求2,000件、抽選倍率最大30倍を記録

番町アドレスの希少性に加え、「Brillia」ブランドが備える一定の安心感が相乗効果を生み、上質な生活を求める層に深く刺さったとみられる。
だが、この高い販売成績には、もう一点注目すべきポイントがある。それは、転売や賃貸を原則禁止とする「制限付き販売」だったにもかかわらず、強い支持を集めたという点である。
制限付き販売とは、本来であれば購入者の資産流動性を制限し、投資性を損なう可能性がある手法だ。しかし「Brillia二番町」においては、むしろそれが「安心して長く暮らせる場所」であるというプラスのメッセージとして機能した。
このような実需志向は、現在の首都圏マンション市場における新たな選択基準を象徴している。背景には複数の要因があるように思える。

資産形成よりも「今の暮らし」の充実へ

近年の都心マンション価格は右肩上がりを続けてきたが、金利上昇や建築費高騰を受け、これまでのような価格上昇の期待感にはやや陰りが見える。
実際、2024年度上期の東京都23区平均価格は1億1,632万円と過去最高を記録したが、それでも「今後さらに値上がりする」という確信を持つ実需層は減ってきている。

株式会社不動産経済研究所画像出典:株式会社不動産経済研究所
首都圏新築分譲マンション市場動向2024年度(2024年4月~2025年3月)

このため、「資産形成」目的で購入するよりも、「今買っておかないと、将来はもう買えなくなるかもしれない」といった危機感から、終の住処として購入する人が増えている。
そうした人々にとっては、将来的な転売可能性よりも、「住民の顔が見える」「賃貸化されず静かな環境が保たれる」といった安心感のほうが価値を持つ。

環境変化に対する意識と、番町という立地の強さ

近年は猛暑や豪雨災害の頻発により、住宅選びの価値観にも変化が生まれている。
室内温熱環境の観点からは、断熱性能に優れた新築マンションが見直される傾向があり、エレベーターの停電対策や備蓄設備の有無など、防災性能への意識も確実に高まっている。

特に2025年8月の京都や関東の豪雨では、「内水氾濫」が都市部でも現実的なリスクとして注目されるようになった。
この点、「Brillia二番町」のある番町エリアは、標高が高く、周囲より地形的に安定しており、洪水・内水氾濫ともにハザードが極めて低いエリアに位置している。
国土交通省「重ねるハザードマップ」や東京都の「浸水リスクマップ」でも、この地域は水害リスクが極小であることが確認できる。

秋以降の市場に与える示唆

春に登場した「Brillia二番町」のような「暮らし重視・実需層重視」の販売手法は、秋以降に分譲される都心物件の方向性にも影響を与える可能性がある。
ハイグレード立地であっても、単に“売りやすい商品”ではなく、誰に向けて、どんな住まい方を実現するかが、これからのプロジェクトでは「我が社はSDGsに取り組んでいます」のように「当マンションは、購入者の居住性を考慮し賃貸運用目的での購入は禁止します」なんて打ち出してくる物件も現れるかもしれない。

なお、今回の「Brillia二番町」で採用された制限付き販売が、実際に将来的に法的・実務的にどれほど有効に機能するのか(特に転売の抑制など)については、今後も追跡して注視していく必要がある。制度としての制限はあっても、購入者の意識と運用実態によって、実際の効果は大きく変わるからだ。


とはいえ、今回のような事例が「自分の購入にも活かせる」と単純に結論づけるのは難しい側面もある。番町エリアは東京23区内でも有数の高価格帯であり、そもそも購入できる層が限られている。「内水氾濫の心配がないから番町に住もう」と考えても、誰もが手を伸ばせる立地ではないのが現実である。

それでも、“なぜこの物件が売れたのか”を冷静にひも解いていくことは、自分にとっての「安心して住み続けられるマンション」とは何かを考える上で、大きなヒントになるはずだ。

 

この記事の編集者

田中 和彦

株式会社コミュニティ・ラボ代表。マンションデベロッパー勤務等を経て現職。
ネットサイトの「All About」で「住みやすい街選び(関西)」ガイドも担当し、関西の街の魅力発信に定評がある。

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