前回のコラムでは、酷暑と気候変動を背景に、断熱性や遮熱性といった「夏の快適性」を重視したマンション選びの重要性を取り上げた。冷房効率やヒートアイランド現象など、気温にまつわるリスクへの対策は今や資産価値と暮らしの質を左右する要素となっている。
一方で、もう一つの気候リスクとして改めて注目したいのが「水害」である。2025年8月25日、筆者が暮らす京都市中京区では、観測史上最大となる1時間あたり102ミリの猛烈な雨が記録され、市街地の道路は広範囲で冠水。地下鉄の運休や避難指示も発令されるなど、都市型水害の現実がまざまざと突きつけられた。ちなみに筆者自身もアーケード下を歩いていたにもかかわらず風に舞い飛ぶ水滴でびしょ濡れとなった…。
特に都心部では、内水氾濫への備えが不可欠だ。内水氾濫とは、下水道の処理能力を超える雨が一気に降り、排水しきれなくなった雨水が地表に溢れ出す現象である。これは河川の氾濫とは異なり、比較的標高の高い地域や河川から離れた住宅地でも発生する。ゲリラ豪雨のように短時間で局所的に大雨が降るケースでは、道路からマンションのエントランスに雨水がなだれ込み、共用部や駐車場を一気に水没させることがある。
こうした水害を避けるためには、次のような点を事前に確認しておきたい。
① 道路より高いエントランスかを確認する
現地見学の際には、建物のエントランスが接道より高い位置にあるかどうかを必ず確認したい。道路面より低く設計されていると、短時間の豪雨であっても雨水が流れ込みやすくなる。反対に、高台やスロープ付きのアプローチがあれば、内水氾濫時の安全性は格段に高くなる。
② 地下設備・駐車場の配置をチェックする
内水氾濫による被害の多くは、地下に設置された機械式駐車場や受変電設備への浸水である。特に、マンションの受水槽や電気設備が地下にある場合、浸水によってエレベーター停止や停電、断水などライフライン全体に深刻な影響が及ぶ。建物の構造図面や重要事項説明書に記載される設備配置図は、できる限り確認しておくとよい。
③ ハザードマップ+過去の浸水履歴も調べる
多くの購入者が確認するハザードマップは、河川氾濫を主とした「想定浸水区域図」であることが多い。しかし、これだけでは内水氾濫のリスクは掴めない。自治体によっては「内水ハザードマップ」や「雨水浸水想定図」を別途公開していることもある。また、地元住民や不動産会社に「過去に水害被害はあったか?」と尋ねるのも有効だ。
中古マンションに比べ新築マンションは価格が高くなりがちではあるが、その多くは最新の排水設備や浸水対策が施されており、断熱・遮音性能の面でも優れている。中古物件との価格差だけに目を奪われず、気候変動を見据えた設備仕様の違いや、災害時のリスク軽減効果も評価軸に加えてほしい。
資産価値を重視するマンション選びにおいて、もはや「安全性」はオプションではない。不動産は「使える資産」であってこそ、真の価値がある。水害リスクの少ない立地と構造を見極めることは、安心・快適な暮らしの基盤づくりに他ならない。