Xでマンション価格予測に関するポストを見かけた。2018年8月25日発売の「週刊現代」の記事だ。そこでは7年後、すなわち今年2025年に中古マンションの価格がどうなっているかAIが予測した増減率が掲載されていた。内容は簡単に言えば「マンション価格は下がっていくことになるでしょう」。
詳細の内容は割愛するとして、結果は大外れ。例えば「代官山アドレス ザ・タワー(東京都渋谷区)」。この物件は2018年から2025年にかけて増減率88.4%(下落率11.6%)と予測されていた。70平米に割り戻した予測価格は1億1830万円から1億462万円へと1000万円以上の下落。現実はどうかというと、現在ネット上で販売が確認できた同マンションの売出価格(参考:2億3800万円/65.97平米)を70平米に割り戻すと2億5254万円となり、実に約1億5000万円程度も外している。
画像出典:マネー現代(https://gendai.media/articles/-/57008?page=6)
この記事を信じて売却した人がどれほどいるかは知らないが、その方はさぞかし悔しい思いをしているであろう。AIの予測は残念な結果となってしまった。
何も「AIは当てにならない」などというつもりはない。この「外れた記事」を読んで感じたことは以下の3つだ。
①AIは万能ではない
2018年のAIは今ほど優秀ではなかっただろうし、当該記事のデータがどのようにAIで生成されたのか(本当にAIだったのかすら!)もわからない。しかし、最新のAIを利用して未来予測をしても同じように大外しする可能性はある。そもそもAIは未来予測が得意ではない。
AIが得意なのは学習データに基づいた回答や単純作業や反復作業等の効率化だ。構造化できていないデータの構造化、すなわちビッグデータの読み取りも得意だ。音声データから議事録を作成するような機能もこれにあたる。
しかし、未来予測は得意ではない。大量なデータに基づいての、設備の故障や消費者の購買傾向等の予測は得意だが、それは過去のパターンが踏襲されるような「安定した未来」が前提となる。AIは疫病や戦争、金融危機のような不連続的変化に弱い。また、不動産価格には住まいやすさや環境への配慮といった、AIの不得意分野である人間的な感情も含まれる。今のAIには精度の高い不動産価格予想は難しい。
②マスメディアは無闇に信じない
不動産に限らず、テレビや週刊誌の記者は決してその分野に詳しいわけではない。むしろよく知らないことの方が多いであろう。読者もそうだ。テレビや週刊誌の特集記事から知識を得ようとしている人は、その分野に対して詳しくない人であろう。なので、本質的な情報を大真面目に書くよりも、センセーショナルな内容で面白おかしい記事にした方が喜ばれる。当然信憑性は期待できない。「正しい知識」「正しいトレンド」を知るには経済誌や学術誌、または国や企業から発表されるレポート等を参考にする必要がある。
③未来を予測するのは「自分」
AIやマスメディアが「未来予測」をすると、それが正解であるように感じてしまう。しかし、本当に大切なのはそれをどう受け止めて、どう活かすか、使う側の姿勢だ。
AIはデータ分析に優れているが、社会や人の感情が絡む未来には弱い。選挙の結果予測などは的確に計算されたとしても、その情報が出回ることで人々の行動が変わり、結果が変化すると言われる。予測そのものが現実に影響を与える。また、週刊誌の予測は話題性が先行しがち。情報の質にばらつきがある。
こうした時代に必要なのは、情報を見極め、自分の判断基準を持つこと。予測は信じるものではなく、判断材料の一つにすぎない。
AIは確かに便利だ。特に、すでに答えが存在しているものに対しては素晴らしいパフォーマンスを見せてくれる。しかし、未来予測については先述の通り、それが答えかどうかわからない。色々なところで散見される「未来予測」、とりわけそれらしい答えを出してくれるAIに関しては、そのアウトプットを鵜呑みにしてはいけない。AIやメディアが語る未来はあくまで一つの参考にすぎない。未来を予測し、そして形づくるのは「自分自身」だ。
*参考:マネー現代「2025年、マンションの9割近くが値下がりする…AIが衝撃予測」