田中和彦が斬る!関西マンション事情 不定期
田中 和彦

[第209号]行政の施策と「伸びるエリア」「廃るエリア」

2024年02月15日

 京都市で新市長が誕生した。いろいろあったが結局は京都らしく共産vs非共産の構図となった選挙戦。「非共産」が勝利した。

 京都市は京都府下の半数以上の人口が集中する政令指定都市であり観光都市だが、いろいろと課題も多い。昨今は観光ブームから「観光公害」が発生。トランクケースを持った数多くの観光客で市バスが混雑し、通勤や通学で利用できないといった事態が起きている。また、セカンドハウス需要を当てこんだ分譲マンションデベロッパーや外資ホテル等の需要で土地価格が高騰し、一般的な給与取得者層にとっては中心部での住宅取得はかなり困難な状況となっており、20代30代の子育て層は滋賀県や大阪府等へ流出し人口減が続いている。中心市街地の住宅取得難がある一方、周辺部や郊外部では空き家が増加。中には管理不全となり周辺に悪影響を及ぼし問題となっている。

 それら諸問題の対策として、宿泊施設には宿泊税を課し、中心部における不動産市況の過熱に対しては建物高さ規制の緩和や市営住宅を利用した子育て世帯定住促進事業、「空き家税」の導入等々、行政としてもいろいろと手は打っている。しかし、それらの効果が現れるのはまだまだこれからであり、やるべきことは山積み。新市長となった松井氏には市民の期待がかかる。

 以上は京都市の話。だが、日本全国を見渡してみると、同じような問題が起きている。中心部も郊外部も課題を抱えている。

 東京一極集中と言われて久しい。ターミナル駅での再開発計画も数多くあり、東京の分譲マンションの平均価格は一億円を超えた。東京のマンション相場は、多少の翳りが見えるとも言えるが、まだまだ高価格だ。東京都区内のマンションは、新築はもちろん中古でも一般の方には手の届かない価格となってしまった。

 一方、地方の不動産市況はなかなか厳しい。馳浩石川県知事の「集落丸ごと避難」や米山元新潟県知事の「復興より移住」発言を受け、インフラ整備を継続的に行うエリアを絞るという意味合いでコンパクトシティが話題になることが増えた。能登半島地震において被災地のインフラ整備は今後どのように復興していくのが良いかについては、周辺の事情をよく知らないので、筆者としては何がベストかよくわからない。しかし、日本全国すべてのエリアに対して十二分にインフラ整備を行うことは難しくなるのは確実であろう。税金、人口等の日本の限られた資源を配分するために、行政区単位でもしくは行政区内のエリア単位で、資源配分の選択と集中を迫られることになる。

 そのような事情を鑑みると、今後の不動産市場を占うためには「行政区の指針」を見ておくことが大切だ。行政の指針によって、今後どのエリアを活性化しようとしているかがわかる。現状起きている問題に対して、その解決策が見えないのであれば、その問題が存在することで割を食っている世代やエリアが見捨てられているとも言える。どこを見捨てるのか、が見える。

 一部の行政区を除けば人口減や高齢化で苦しむことが確実な情勢の中、どのエリアにどんな人を呼ぼうとしているのか?そのための施策はどのようなものなのか?それは実現可能が高く妥当なものなのか?そのような部分には敏感でありたい。

 もちろん、何ページにも及ぶマニュフェストを読み込んで判断する必要はない。箇条書きレベルで構わないので施策をチェックすれば良い。京都市であれば「高さ規制が緩和されるから供給が増えるだろう」、神戸市であれば「タマワン規制で都心部の供給は減るであろう」そのくらい考えるだけでも、近隣エリアと比べて相対的に上がり目かどうかくらいはイメージできると思う(それが正解かどうかは先にならないとわからないが……)。

 すべての不動産が値上がり、もしくは値下がりする時代はもう来ない。色々な人、色々な媒体でニュアンスこそ違えど、「将来的に上がる」「横ばいorジリ貧」「下落or売却不能」といった三極化が進むという意見が多い。行政の打ち出す方針を見ておけば、少なくとも「下落エリア」を選ぶことはないはずだ。

 

 松井新市長はマニュフェスト内で、人口増ひいては不動産市場の活性化につながる施策いくつもあげている。施策の内容と、それらがどのように実施されていくか。それによって「上がる」「ジリ貧」等エリアの見通しが立つ。

この記事の編集者

田中 和彦

株式会社コミュニティ・ラボ代表。マンションデベロッパー勤務等を経て現職。
ネットサイトの「All About」で「住みやすい街選び(関西)」ガイドも担当し、関西の街の魅力発信に定評がある。

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