田中和彦が斬る!関西マンション事情 不定期
田中 和彦

[第136号]コロナ禍での宿泊施設はどうなるか?~京都の現状より

2021年01月29日

【天国から地獄、の宿泊業】

アメリカの旅行雑誌「トラベルアンドレジャー」のワールドベストシティランキングで京都が世界一に選ばれたのが2014年。奇しくも宿泊施設・民泊向けWEBサイト「Airbnb」が日本に上陸した年でもあった。

そこを端緒に一気に加速していったインバウンドブーム。東京オリンピックに向けて政府も観光立国の旗を振りインバウンド客を誘導。空前の民泊ブーム・ホテルブームの下、不動産業界も沸いた。日本各地で民泊・ホテルがガンガン開発され、京都では住宅地としては人気は低いが交通利便性の高い場所、例えばJR「京都」駅南側の京都市南区の中古一戸建て等の価格が高騰した。

その後、京都においては「観光立国」よりも「観光公害」が取り沙汰されるようになった。伏見稲荷や清水寺等の超メジャーな観光地はもとより、ちょっとした観光地や飲食店等々に人が押し寄せ、公共交通機関もパンク気味。街は観光客で飽和。ライトアップ等のイベントが「人が集まるので危険」と中止されることもチラホラ。これ以上の観光客増加は、望まれることも無く、また、見込まれることも疑問符だった。

そのような状況の中、宿泊施設の建築計画は止まることはなく小規模から大規模に至るまでホテル開発がそこかしこで進み、宿泊施設数は急増。ホテル不足から一転してホテル過剰が懸念されるようになった。そこに追い討ちをかけるように、小規模事業者に負担がかかるような形で京都市の条例が強化、「おいしい商売」であった宿泊事業の収益性の魅力は完全にピークアウトしていた。

しかし、事業主にとっては一度進んだ計画を止めることは難しい。京都の街は、大資本による大規模ホテル、マンション開発から計画変更されたホテル、賃貸マンションから用途変更されたホテル、数戸~十数戸の小規模な宿泊特化型ホテル、一戸建てや町家を改装したホテル、街中がホテルになったような感覚、勢いで建築しているとしか見えない様子であった。と、これが2019年までの話だ。

そのような事情で、ホテル淘汰が進むであろうと予測されていた2020年、世界は一変した。新型コロナウィルスによる「コロナ禍」だ。宿泊施設が激増したとはいえ「開けてるだけで100%稼働」が見込めた桜の季節も、コロナ禍で海外渡航者がほぼゼロに。ホテル過剰どころか「ホテル不要」、淘汰どころか壊滅に近い市況となった。多くのホテルが廃業・休業を強いられ、その状況は2021年になっても大きくは変わっていない。おそらく今後も経営難の宿泊施設が増えるのは間違いない。

 

【経営不振に陥った宿泊業の今後】

全く足りない状況から「ダダ余り」となった宿泊施設。今後はどうなるのか?おそらく以下のような方向で淘汰が進むはずだ。

・経営不振の大規模施設はオーナーが代わり継続営業
昨年秋のGoToキャンペーン時、京都市内の各観光地には一昨年並み数の観光客が訪れた。コロナ禍はいずれは終わるであろうから、現在の閑古鳥状態をしのげる体力がある企業にとっては、絶好の仕込みチャンスである。実際に、体力のある企業は現在も新規事業を進めており、経営難等で手放されたホテルを購入しようと虎視淡々と狙っている。

・小規模施設は徐々に事務所・賃貸住宅に用途変更
一番ダメージを受けているのは小規模施設だ。その多くはインバウンドブームに乗ってここ2、3年に土地を購入し建物を建築している。旅館業としての売上想定、すなわち住宅よりも高収益を想定して借入を起こしているため、簡単にホテル以外の用途に変更はできない。変更した時点でホテル並みの収益が見込めず返済計画が狂うからだ。かと言って、今の状況では借入金を返済するだけの高値で売ることも難しい。売るに売れない状態だ。しかし、そんな状態は長くは続かない。大規模施設に比べ効率が悪く収益性に劣る小規模施設は、資金力のあるオーナーであれば自らが、資金力に乏しいオーナーであれば売却後に新オーナーが事務所や住居等に用途変更をした上で収益物件として存続させるであろう。

もちろん、全ての宿泊施設がそうなるわけではない。実際に小規模ながらも創意工夫で営業を継続できている宿泊施設も存在する。しかしマーケット全体を見たときに、仮にコロナ前のようにインバウンド客が増えたとしても、宿泊施設が多すぎるのは間違いない。総論としては上記のような流れになるのは間違い無いであろう。

 

この記事の編集者

田中 和彦

株式会社コミュニティ・ラボ代表。マンションデベロッパー勤務等を経て現職。
ネットサイトの「All About」で「住みやすい街選び(関西)」ガイドも担当し、関西の街の魅力発信に定評がある。

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