「事故物件の告知ルールに新指針。賃貸物件は3年を過ぎると告知義務がなくなる?」。ネットニュースで見て「事故物件がわからなくなる??」と驚いた人も多いかもしれない。ニュースのタイトルは一般の人にもわかりやすくするため、ネガティブな言い方をすれば、多少間違った理解をされてもいいから目立たせるためにそのように書かれているが、まだ何かが決まったわけではない。
ニュースになったのは国土交通省から「宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン」(案)に関するパブリックコメント(意見公募)が開始されたという話。そのガイドラインの中に具体的なことが記載されているのが話題となったわけだ。
このガイドラインの中には具体的に以下のようなことが示されている。
1)他殺、自死、事故死その他原因が明らかでない死亡が発生した場合
このようなことが生じた場合は原則として告げる、としている。買主・借主が契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられるからだ。実際にこのような物件では、買主が売主に説明義務違反等を理由とする損害賠償責任をめぐる紛争が見られる。
2)自然死又は日常生活の中での不慮の死が発生した場合
これらは告げる必要なし、とされている。自宅における死因割合のうち老衰や病死による死亡は9割を占める一般的なもので「自宅での自然死」は当然に予想されるものであり、事故死についても同様の解釈としている。ただし例外として、長期間遺体が放置され特殊清掃が行われた場合などは告知事項としている。
とここまではごく常識的な見解であるように思えるが、続く文章でこの告知事項について賃貸と売買で差をつけている。賃貸は概ね3年間は告げるもの、売買は調査を通じて判明した範囲で告げるもの、となっている。杓子定規にいうと、賃貸の場合は4年前に殺人事件が起きた部屋でも告知の必要がなく、売買の場合は数十年前に起きた殺人事件でも知っていれば告知しなければいけない、ということになる。
たたき台としては妥当であるように思うが、具体的な事案に当てはめて考えるとなかなか悩ましい。
例えば同じ殺人事件にしても「介護疲れによる家族内の殺人」と「凶悪犯の侵入による無差別殺人」では心象が違う。また、東京都内・大阪市内の繁華街にある物件と、郊外ニュータウン、地方の旧集落では捉えられ方も違う。これらを仔細にガイドラインに盛り込むことは大変困難な作業だ。
「不動産の瑕疵」には雨漏り・白蟻被害のような物理的瑕疵、再建築不可・土地利用の制限等の法律的瑕疵等があるが、これらは建物を調べたり役所調査をしたりすることである程度明らかにできる。また、物理的瑕疵は修理にかかる金額を見積もればいいし、法律的瑕疵で使用収益が制限されているような物件は収益予想等をたて、それらの瑕疵を金銭換算することができる。それに対し心理的瑕疵は金銭換算しにくい。極端な話、そのような瑕疵を嫌う人にとってはタダでもいらないはずだ。
心理的瑕疵については、金銭換算できない、すなわち購入後に金銭でリカバリーできないからこそ、正しく告知されるべきという買主・借主が多いとともに、オーナーはいつまでも「過去が消えない」ことに不安を覚えることになる。
ちなみに筆者は京都で不動産コンサルタントを営んでいるが、あるエリアで地下から人骨が発見され、幕末期の他殺体ではないか?と判断されたことがあった。新撰組による殺人であったかもしれない(物件は新撰組の屯所に近いエリアだった)。100年以上前の殺人事件、果たして告知事項に入るのか?
これは多少極端な例だが、「告知事項」となる事件は過去に何千件何万件と起きている。それらの個別事案についてどのようにガイドラインが定められるかは、不動産購入者・所有者、そして現場で業務を行う宅建業者にとって気になるところである。
※Yahoo!ニュース
「事故物件の告知ルールに新指針。賃貸物件は3年を過ぎると告知義務がなくなる?」
※国土交通省報道発表資料
「「宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン」(案)に関するパブリックコメント(意見公募)を開始します」